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期待はされぬうちが花。

私が犯人に仕立て上げられそうになり、危うく難を逃れてからというもの、彼の姿を見なくなった。彼は小心のくせして、行動は割と直情的なところがあるから、私はどうしたものかと心配で、彼の安否を知りたくなってきた。なにせ、私が書き込み、彼をこんな状況にしてしまったのは、とても申し訳なく思っているし、これからどうしようものか、あれこれ考えていたところだった。といって、私が犯人でしたと、ここですんなりと種明かししてしまうのは、興ざめだと思う私もいて、好奇心を満たしたい私は、とりあえず、まだ種明かしはせずに彼の自宅を訪ねることにした。一通り、私は一日の授業を受け終え、シュークリームを4個買い、彼の自宅を訪ねた。時刻は4時30分をまわったところである。

彼の自宅は大学から歩いて数分にあり、通学路は信号を挟まない。こたつとの戦いになる冬にでも、彼は大学に行くのを厭わない距離にあるのは、私は羨ましく思っており、どうせ学校にこないのなら、大学から遠い私の住まいを一時的でもよいから交換したいと思えてしまう。
私は彼の部屋番号を押すと、しばらくして、彼の図太い声が返ってきた。並の人なら、この声に恐怖し、途端に口から謝罪の言葉が出てきてしまうだろう。
「誰だ。」
「私だ。見舞いに来た。」
「見舞いなどいらねえ。俺は簡単には死なない。」
「シュークリームを買ってきた。食わないのなら、私が全ていただくことにしよう。」
彼はシュークリームに目がない。どんな問題でも彼にシュークリームを与えさえすれば、難なく解決になる。私が種明かしをしないでいられるのは、シュークリームで解決できると自信があるからなのだ。
「また、姑息な手段を使いやがって。お前は犯人ではないのか。」
ぎくりとする。私は声高を変えず、落ち着いた雰囲気で返答する。
「何をおっしゃる。滅相もない。そんなことを言ってるうちは犯人は捕まりませぬぞ。」
「それもそうだな。まあ入れ。」
ピーッと開錠する音とともにオートドアが開く。彼の自宅はこのアパートの3階の奥にある。3階までの階段を上りきるまでに、彼はドアを開け、寄りかかっていた。玄関明かりだけなので、うっすらとしか見えないが、よく見ると、彼の目尻は赤く腫れ、どうも泣いていたようである。私はそんな彼の姿を見ると、ばらそうかと気持ちが一瞬頭を過るのであるが、これから彼はどうするのかということに興味が湧かないこともなく、この好奇心によって揺らぎかけた心にしっかり杭を打ち込むことができるのだ。

シュークリームの入った袋を彼の前に突き出すと、いかにもうれしさを浮かべないように努力している様子で、袋をひったくった。この引き攣った顔はにらめっこでも子供顔負けの変顔である。これには私も顔を上げられぬ。靴を脱ぎ、部屋に入ると、そこは彼の性格からは想像もできない清潔感のある部屋で、この部屋で引きこもるのも、悪くないと思える。彼の部屋の真ん中にはこたつ机があり、机の上を見る限り、彼の生活の基盤はこたつにあるようだった。シュークリームを袋から取り出すと、ムシャムシャと食べ始めた。
「もう、俺には無理だあ。どうせ、部員から恨まれているのは最初から知っていた。」
「今度は、極端にしょげるますね。怒ったり、拗ねたり、抑揚の激しいお方だ、あなたは。」
「甘いものを食べると、どうも気弱になってしまう。」
彼は私が持ってきたシュークリームを私には渡さぬ勢いで4個全て食らい、口にクリームのあとをべっとりつけて
「お前は俺がこうも悲しんでいるのに、慰めの言葉一つでないのか。冷淡な奴だ。冷淡なのは、あの子だけでよいのに。」
「あの子とは彼女の事ですかい。」
「あの子はいずこへ。私の心を抜き取って、どこへ行くのか。私もついていきたかった。」

彼には、好きな人がいた。その人は元部員で、私もよく知る人なのだが、私はあの冷酷な目で見られると、身の毛もよだつ思いしかしなかったのを憶えている。私には彼がどうして、あんな高飛車なお人を好きになったのか、私には到底理解できない。彼は彼女のことを一途に思っているのだが、彼の小心ときたら、全く見えるものではなかった。彼女の前では、普段の荒々しい口調は行方を晦まし、雑音の入ったラジオ並に聞き取れない声で喋るのだった。猫を被るとはまさにこのことだと感心したのを憶えている。
ある日、その人は置手紙をして、この部活を去った。「ちょっと、旅に行ってくるわ。あとは彼によろしく。」そのあとは、何やら役職はどうするのだとか、緊急連絡先はここだとかいったことが、何行か書かれていたのをうっすら覚えている。ということで、彼は彼女の担っていた役職を全て引き受けることになったのだった。
「そういえば、彼女の連絡先やらの手紙はどうしたのです。形見として、あんなに大事にとっていたでしょう。」
「たしか、俺のカバンに。」
「あれ、なんですか。これは。カバンの内から白くなってますけど。」
「ああ。しまった。牛乳がカバンの中で洪水を起こしてる。」
カバンを開けると、あの牛乳独特の発酵した生臭い匂いが部屋に解き放たれるのを感じた。私は反射的に鼻を押さえ、中を見た。そこには、読まれた様子がない教科書やあまり使われているのを見たことがないルーズリーフなどが、一緒くたになって牛乳まみれになっていた。
「怒りの矛先をカバンにぶつけたのが間違いだった。あの子の手紙も、このざまだ。」
「なぜ、カバンに零れるかもしれない牛乳をしまっておいたのですか。」
「犯人に牛乳をお見舞いしてやるといったのに、手に持ち歩いていたら、気づかれてしまうだろうが。だから念のために、カバンにしまっておいたのだ。」
「何が、念のためですか。零れてしまっては、何のための念のためかわかりゃしない。」
「もう終わりだ。あの子との繫がりはこの手紙だけだったのに。」
「きっと彼女はフラッとあらわれますよ。神出鬼没とは彼女にピッタシだと合意したではないですか。」
彼は私の言うことをまるで聞いていない。部屋には牛乳の匂いとともに彼の哀愁の匂いが立ち込めるのであった。
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Author:北大OLC
北海道大学オリエンテーリング部のブログである。練習会や日々の出来事をなるたけ面白おかしく嘘も交えつつ書くことに余念がない。ただし、大会の告知は嘘をつかないことを誓う。来る者は拒まず、去る者も拒まず、新入部員募集中。
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